南アジアでの研究(直近の調査資金:2021〜2024年度・科学研究費基盤研究A「ヒマラヤの人と自然の連環: 東西3地域の比較研究」)



(1) ネパールの土地利用:観光開発,物資輸送システム,土地利用・土地被覆変化,森林伐採

 主としてネパールの研究者と共同で,サガルマータ国立公園,アンナプルナ自然保護区,カプタード国立公園,カンチェンジュンガ自然保護区などで,森林・農地などの土地利用・土地被覆変化と観光開発,観光に必要な物資輸送システムの変化,家畜飼育形態の変化への観光の影響などに関する調査を行っています。
 ネパール・ヒマラヤの高所(高山帯)に自動車でアクセスできるところはごくわずかです。ほとんどの地域では,歩くことで初めて高所に行くことができます。一方で,カンチェンジュンガ自然保護区やサガルマータ国立公園などでは,自動車道路開発がゆっくりと進でいます。アンナプルナ自然保護区では自動車道路が高所にまで建設されて,トレッキングに必要な日数が短縮されました。そのため,アンナプルナ自然保護区を訪問する外国人トレッカーの人数は,ネパール・ヒマラヤの自然保護地域(国立公園や自然保護区など)の中で最も多くなりました。
 カンチェンジュンガ自然保護区はとてもアプローチが長くて観光施設がほとんどないため,これまでこの保護区を訪問する外国人トレッカーは,せいぜい年間数百人でした。しかし,谷底の自動車道路が延びていることから,将来,カンチェンジュンガ自然保護区で静かなトレッキングができなくなる日が来るのではないかと,アメリカ人研究者らと心配をしています。
 エベレスト山を擁するサガルマータ国立公園でも自動車道路がのびています。現在までのところは,小型飛行機で入山できるトレッカー人数しか入ってくることができないのですが,それでもトレッカー数は増えていて,ロッジがどんどん増えています。ロッジで提供される食事や調理に使うガスなどの物資は,家畜(標高3470 mのナムチェバザールよりも低所ではミュール,それよりも高所ではオスのヤクとゾプキョ)と人間が運んでいます。輸送は携帯電話の普及で容易になり,それぞれの集落には仲買人がいて,倉庫に食料品などを蓄えるようになってきています。
 また,ネパールでは,従来から森林伐採の進行が問題視されてきました。しかし,実際には複雑・多様で,住民の努力によって森林が増加している場所もありますし,森林面積は広がっていても斜面を安定させることのできない樹種が植えられている場所もあります。

関連した修士論文・博士論文研究
Bhattarai, N. (2024):  Studies on addressing challenges and enhancing community engagement in REDD+ implementation in Nepal and India. Ph.D. thesis submitted to Hokkaido University.
Sun, Y. (2022) Tourism-led socioenvironmental changes in Sagarmatha National Park, Nepal Himalaya. Ph.D. thesis submitted to Hokkaido University.
Sun, Y. (2018): Tourism impacts on society and land use/land cover changes in Sagarmatha (Mount Everest) National Park, Nepal. Master's thesis submitted to Hokkaido University.
Chhetri, P.K. (2012): Treeline ecotone dynamics of Abies spectabilis in the Barun vally, eastern Nepal Himalaya.Master's thesis submitted to Hokkaido University.
Ghimire, M. (2011): Geomorphological studies on the first order basins in the Siwalik Hillas, Nepal. Ph.D. thesis submitted to Hokkaido University.
Devkota, S. (2007): Land-use/cover Patterns and Their Changes in the Terai and Hills of Nepal. Master's thesis submitted to Hokkaido University.
Regmi, D. (2006): A Geomorphic Study of Permafrost in the Nepal Himalaya. Ph.D. thesis submitted to Hokkaido University.
Asahi, K. (2005): Late Pleistocene and Holocene Glaciations in the Nepal Himalayas and Their Implications for reconstruction of Paleoclimte. Ph.D. thesis submitted to Hokkaido University.
Gautam, C.M. (2005): Anthropogenic Disturbance, Floristic Composition and Diversity in the Hill Forests, Bharse Area, Gulmi District of Nepal. Ph.D. thesis submitted to Hokkaido University.
Regmi, D. (2003): Rockfall in the eastern Nepal Himalaya: A case study of the Kanchenjunga area. Master's thesis submitted to Hokkaido University.
Otaki, Y. (2002): Study for conservation of blue sheep (Pseudois nayaur) in the Kanchanjunga Conservation Area, eastern Nepal. Master's thesis submitted to Hokkaido University.
Tanaka, S. (2002): Rock glaciers and the lower limit of discontinuous mountain permafrost in the Langtang valley, Nepal Himalaya. Master's thesis submitted to Hokkaido University.
Gautam, C.M. (2002): Evaluating methodology of the land use/cover change study and causes of land use/cover change in the Kanchanjunga conservation Area, eastern Nepal. Master's thesis submitted to Hokkaido University.
Nakamura, N. (2000): Landslides developed on the lateral moraines of the Kanchanjunga Glacier, Kanchanjunga area, eastern Nepal. Master's thesis submitted to Hokkaido University.
Sugawara, Y.. (1998): Impact of yaks on grazing slopes, Nepal Himalaya. Master's thesis submitted to Hokkaido University.
Ikeda, N.. (1998): Pattern of transhumance and its relation to environmental factors around Gosainkunda area, Langtang Himal, central Nepal. Master's thesis submitted to Hokkaido University.
Manandar, A. (1998): Forest resources and fuelwood consumption in Palung VDC, central Nepal. Master's thesis submitted to Hokkaido University.

(2) サガルマータ国立公園の山岳登山道景観 (Mountain Trailscape)の荒廃:ヤクの放牧システムの変化,登山道侵食

 サガルマータ(エベレスト山)国立公園では,地元の住民とトレッカー(コロナ禍以降,外国人トレッカーに混じってネパール人トレッカーも見られるようになりました),およびヤクを中心とする家畜が,登山道を利用しています。家畜が歩くために複線化(登山道が平行して数本,覆うところでは10〜12本)がこの地域の登山道の大きな特徴でしたが,最近はトレッカーの増加で,土壌侵食が著しくなってきました。登山道の侵食には,トレッカーだけではなく,家畜の放牧のされ方も大きく関わっているようです。
 最近になっていろいろな研究分野で使われるようになってきたドローンを用いて,登山道とその周辺を含めた山岳登山景観の調査をしています。また,トレッカーがトレッキング・ポール(ストック)を使用しているかいないか,使用している場合はキャップを付けているかどうかも調べています。日本とは違って,キャップをつけていないトレッカーが多いことがわかってきました。そのため,登山道の荒廃(侵食と裸地の拡幅)が著しいようです。
 興味深いことに,ネパールの国立公園の登山道は,地元のコミュニティによって管理されています。最近,標高4000 mを超える高所であっても,あちこちにコンクリートで固めた階段が設置されるようになり,また場所によっては不適切な管理が行われるようになってきました。取り返しの付かなくなる間に,住民が正しい知識を得て,適切な管理を進められるように働きかけをして行くことが急がれています。

関連した修士論文・博士論文研究
Sasaki, M. (2025): Changes in pastoralism since the 1990s. Master's thesis submitted to Hokkaido University.


(3) パキスタン・カラコルム・フンジェラブ国立公園,シムシャール

 2003年に日大の水嶋一雄教授(故人)に連れられて初めて訪問したパキスタン北部地域での調査は,しばらくパキスタンの政情が不安定であったため一時的に休んでいましたが,2020年夏から調査を再開しました。シムシャールでは,村と国立公園の軋轢,トロフィーハンティング,ヤクの移牧に焦点を当てた調査をしています。BR>

関連した修士論文・博士論文研究
六井菜月 (2024): パキスタン、シムシャール村におけるトロフィーハンティングおよび野生動物資源の持続可能性に関する研究. 北海道大学大学院環境科学院修士論文.

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